2014年2月15日土曜日

110 函館山:トンボロの街

 函館山からみる夜景は、きれいで有名です。函館の市街地は、海に囲まれた狭い帯状に密集してあります。函館山から見下ろすと、すぐ近くにコンパクトに集まった夜景が見えます。そんな函館の町並みを形成した、地質学的背景を見ていきましょう。

 先日、校務で函館にでかけました。冬の北海道では、雪による交通機関の遅れや運休などの乱れがあるため、重要な用件があるときは、スタッフは先発隊と後発隊に別れ、先発隊は2日前に出かけることになります。もちろん、先発しても校務はあるのですが、空き時間もできます。その午後の空き時間を使って、函館の街の散策にでかけました。
 函館は、何度もきた記憶があるのですが、だいぶ以前のことで、いった場所の記憶も定かでありません。学生時代は青函連絡船で津軽海峡を何度も渡りました。着いたばかりの函館で、朝市で朝食をとったことを覚えています。
 今回は、函館の近場の名所を周ることにしました。まずは、駅周辺の朝市(午後にいきました)と、青函連絡船の摩周丸をみました。その後、市電に乗って、函館山周辺に出かけました。
 函館に着いたのは、ちょうど本州の各地に雪を降らした低気圧が近づいている前でした。気温は氷が少し溶け始めるほどの暖かさでしたが、風が強く、体感温度がすごく低く、寒く感じました。しかも前日の暖かい天気で、雪が溶けて、歩道がツルツルのアイスバーンになっていました。平らな道を歩くのさえ怖いほどの状態でした。
 市電を降りて、ロープウェイ乗り場に向かう前に、坂道の上にある教会を見るために向かいました。ところが、坂道がツルツルでとてもじゃありませんが、歩いて登ることできません。一部、スベリ止めの砂利が撒かれているところがあったので、砂利あるところを頼りに登りました。非常の怖い思いをしました。教会は見学したのですが、アイスバーンと強風のため、ロープウェイは諦めました。まあ、次のチャンスを待ちましょう。
 アイスバーンと強風で冷えた体を温めるのには、温泉が一番です。函館では、街の西はずれにある「川の湯」温泉が有名ですが、実は市街地にもいくつも温泉があります。函館市内には60ほどの源泉があるそうですが、そのうち40ほどが湯の川にあります。ほかの泉源は市内にあり、銭湯や市街地のホテルでも、天然温泉を謳っているところがいくつもあります。幸いなことに泊まった駅前のホテルも、天然温泉付きでした。寒い時期の温泉は格別で、ホテルの最上階にあった温泉から市街地の眺めも最高でした。
 さて、函館の市街地です。函館山から眺める夜景がきれいで有名です。函館山から見ると、両側が海に囲まれ平らな平野に町並みがあります。町並みの西の函館湾側は埋め立てられ埠頭ができ、ライトアップされています。北の内陸は函館平野につながり、さらに奥は丘陵地帯の灯りの少ないことろへと続きます。そんな自然の地形と人工の灯りも加わり、函館は夜景がきれいになっているのでしょう。
 この函館の市街地は、少々不思議な地形をしています。函館湾の奥にみえる函館平野は、北の丘陵から流れこむ久根別川、北西の丘陵から流れ込む大野川と戸切地川による扇状地からできています。平野の扇状地とは少し離れて、市街地の平野が海の中に細長く形成されています。函館の市街地は、両側が海に面した1kmほどの幅しかない非常に狭いところにあります。その先に突き出た函館山があります。
 このような地形の特徴は、函館山によるトンボロ(tombolo)現象によってできたものです。陸の近くに島があると、沖からの波が島の両側を回って、裏側で打ち消し合って穏やかになることがあます。そこには沿岸流や河川によって堆積物がたまりやすくなり、砂洲が形成されることがあります。このような島と陸をつなぐ砂洲のことを、トンボロ、日本語では陸繋砂州(りくけいさす)と呼ばれています。沖に島があることによって、陸との間に砂洲ができることをトンボロ現象といいます。
 函館の場合、まず函館島(現函館山)ができました。津軽海流による流れが島を回りこみ、島の裏側(陸側)に流れの穏やかなところができました。そこに、北東の丘陵から流れ込む亀田川による堆積物の供給によって、砂洲が形成され、砂洲がのびて島と繋がったのでしょう。
 では、そもそも函館島は、どうしてできたのでしょうか。函館島は、火山活動によってできたものです。函館山の火山活動は、100万年前ころに活動したことが知られています。年代測定として120万~93万年前(更新世前期)のデータがありますが、地質調査や年代測定は十分になされておらず、詳しい活動史や年代はわかっていません。
 函館火山は、いくつかの活動時期があったとされています。古いものから、立待岬溶岩、千畳敷集塊岩、高竜寺山溶岩、千畳敷溶岩、そして御般山溶岩をつくった活動になります。函館山の火山岩は、安山岩質からデイサイト質のマグマからできていますが、溶岩ごとに特徴があり、このような区分されています。
 立待岬溶岩は、流れたつくりをもつ(流理構造といいます)溶岩です。千畳敷集塊岩は、角礫状の溶岩とその間を埋める凝灰岩からなります。高龍寺山溶岩は、分布は少ないのですが、大きな斜長石の結晶(斑晶と呼びます)をもっています。千畳敷溶岩は、平らな台地をつくっている溶岩で、白と黒の縞状の流理構造をもっています。御殿山溶岩は、函館山山頂を中心に分布する溶岩で、やはり流理構造をもっています。
 広く日本列島でみると、函館火山は、東北地方の下北半島の恐山まで続く火山列と、ニセコ、洞爺、支笏へと広がる火山列の間にあたります。日本列島の火山は、海溝にそったところに列をなして分布しています。海溝に近い火山を結んたものを、火山前線と呼んでいます。函館は、東北から北海道西部の火山につながる火山前線に、位置します。近くの活火山として、駒ケ岳や恵山があり、火山前線となっています。函館は、火山前線にあたるところですから、多数の温泉があってもおかしくないのです。
 日本列島の火山前線で、100万年前ころ、度重なる火山活動によって、函館山はできました。その火山は、たまたま陸の近くの海で活動したため島となりました。その後、海流や河川の作用によるトンボロ現象によって砂洲ができて、函館島と亀田半島が陸続きになりました。そこに人が住み着き、港や町並みができ、温泉も利用されるようになりました。
 このようなストーリが、函館山から見える夜景を生み出している、地質学的背景としてあります。

・トンボロ・
トンボロとは不思議な響きをもった言葉です。
トンボロ(tombolo)はイタリア語で、
陸繋砂州の意味で、英語やドイツ語、
フランス語でも使用されています。
語源としては、ラテン語のtumulusに由来し
古墳のような盛り土による小丘、
moundを意味するそうです。
トンボロ現象は珍しくはありますが、
稀でなことではないようです。
日本で函館山のほかに、
江の島や潮岬、青島なども
トンボロ現象によってできたものです。

・春よ来い・
1月から2月上旬は、大雪が何度が降ったのですが、
2月中旬は、雪もそれほど降ることもなく、
北海道は、暖かい日と、寒い日が
繰り返しておとずれています。
もう、大雪が降らないことを願います。
今年は大雪で、道が狭くなり
通行が非常に困難になっています。
こんな雪が多い年は、
特別に春が待ち遠しいです。